●アルコールが分解されるしくみ
お酒と末永く上手に付き合っていくために、自分がお酒に強い体質かどうかを知っておくことは重要です。
その前に、まずは体に入ったアルコールがどのように代謝されていくのかを確認しておきましょう。
口から入ったアルコールは、約20%が胃から、約80%は小腸から吸収されます。吸収されたアルコールは血液の中に溶け、肝臓を通ってから全身をめぐり、脳に達すると酔いを感じます。
アルコールは体内に吸収されるとすぐ、分解され始めます。分解のほとんどは肝臓で行われ、アルコールは初めに、ADHと呼ばれるアルコール脱水素酵素とMEOSと呼ばれるミクロゾームエタノール酸化系の酵素の働きによって、アセトアルデヒドに分解されます。
アセトアルデヒドは体にとって有害な物質で、血液中の濃度が上がると、顔が赤くなる、頭痛、吐き気、動悸などの症状を引き起こします。飲み過ぎると二日酔いになるのは、肝臓で処理しきれなかったアセトアルデヒドが体内に残ることと、軽い脱水状態になることがおもな原因です。
アルコールから分解されたアセトアルデヒドは、次にアルデヒド脱水素酵素のALDHによって、人体に無害な酢酸(アセテート)に分解されます。
酢酸は、血液の流れに乗って肝臓から離れて全身をめぐり、筋肉や心臓などで最終的に水と炭酸ガス(CO2)に分解され、やがて汗や尿とともに体外に排出されます。
●「ALDH2」のタイプで決まる、強い人と弱い人
では、この一連の代謝のしくみの中で、お酒に強い人と弱い人では何が違うのでしょう。
アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素のALDHには、実は1型の「ALDH1」と2型の「ALDH2」の2種類があります。
ただし、ALDH1はアセトアルデヒドの血中濃度が高くならないと働かないという怠け者で、一方のALDH2は血中濃度が低いうちから分解を始める働きものです。
飲む側の都合でいえば、アセトアルデヒドは少ないうちからどんどん分解をしてもらったほうが、不快な思いをせず飲み続けることができますので、怠け者のALDH1は無視して、ALDH2にどんどん働いてほしいところです。
ところが、ALDH2にはアセトアルデヒドを分解する能力の高い「高活性型(NN型)」と、能力の低い「低活性型(ND型)」、分解能力のまったくない「不活性型(DD型)」の3タイプがあり、どのタイプのALDH2を持っているかで、飲めるお酒の量が変わります。お酒に強いかどうかは、このALDH2のタイプで決まるというわけです。
どのタイプかは、親からの遺伝により生まれつき決まっていて、途中で変わることはありません。
ALDH2が高活性型(NN型)の人は、アセトアルデヒドが少ないうちからどんどん分解されていく、いわゆる「アルコールに強い」タイプです。
飲んでも顔にほとんど出ず、飲んでいる途中で眠くなることはあまりありません。
ALDH2が低活性型(ND型)の人は、アセトアルデヒドが少ないうちから分解はされていくのですが、その能力は活性型に比べて16分の1と低く、「アルコールに弱い」のはこのタイプです。
お酒を飲むと、顔や体が赤くなったり、胸がドキドキするなどの症状が出やすいのが特徴です。飲み続けることで見かけ上は強くなり、赤くなるなどの症状が少なくなったりしますが、「アルコールに強い人」よりもアルコールにより体を壊しやすいため、健康維持のためには「アルコールに強い人」より少なく、1日1合までにとどめましょう。
ALDH2が不活性型(DD型)の人は、「アルコールにまったく弱い」タイプです。アルコールを飲むと、アセトアルデヒドが分解されないため、顔がすぐ赤くなるか青くなり、頭痛や吐き気、動悸、かゆみなどの不快な症状が起こり、それが長く続きます。
このタイプの人はすでに自覚しているはずですが、体質的にアルコールが合わないため、飲めません。訓練しても飲めるようにはなりませんので、周囲の人も無理にすすめないよう注意が必要です。
●お酒に強い人は、日本人の56%
日本では、ALDH2が高活性型(NN型)の遺伝子を持つ人は約56%で、約100%がこの遺伝子をもつ黒人や白人種に比べて、お酒に弱い人種です。
これは、人類が3大人種の黒人、白人、黄色人種に分かれたあと、黄色人種の中のモンゴロイド(蒙古系人種)に突然変異でALDH2が働かない人が現われ、お酒に弱い人が増えていったためといわれています。そのため、同じモンゴロイドの中国人も、高活性型(NN型)の遺伝子を持つ人は、日本人とほぼ同じ59%にとどまっています。